Connecting the Dots

米国証券法、デリバティブ、香港証券市場について学んだことを書いていきます。当ブログは法的アドバイスを提供するものではありません。ブログ中の意見にわたる部分は個人的見解であり、私が所属する事務所の見解を述べるものではありません。

BCBSおよびIOSCO発表の証拠金規制について

20127月にバーゼル銀行監督委員会(BCBS)および証券監督者国際機構(IOSCO)がデリバティブ取引の証拠金規制の市中協議書を公表しました。

1 証拠金規制の概要

市中協議書においては、ポテンシャル・エクスポージャーを反映させた当初証拠金(Initial Margin (IM))およびカレント・エクスポージャーを反映させた変動証拠金(Variation Margin (VM))の差し入れを義務付けています。

しかも、当初証拠金については、グロス・ベースで算定することとされています。すなわち、信用リスクが低い当事者(事業会社など)が信用リスクの高い当事者(金融機関など)に対して、信用リスクの差に対応した(ネットでの)証拠金を差し入れたり、変動証拠金とネットしたりすることは認められないようです。

また、市中協議書においては、差入担保の返還請求権が法的に保護される取り扱いを導入することを提案しています。

なお、証拠金規制について整理すると下記の通りです。

証拠金の種類

概要

コメント

当初証拠金

ポテンシャル・エクスポージャーを反映させた金額。ポテンシャル・エクスポージャーとは相手方の信用リスクに対応するもの。

CSAの独立担保額(Independent Amount)に相当

変動証拠金

カレント・エクスポージャーを反映させた金額

Mark to Marketが必要となる

 

2 デリバティブ取引をするために巨額の当初証拠金が必要になる?

証拠金規制が導入された場合、ISDAが自己資本規制の内部モデルを用いて試算したところによると、デリバティブ取引全体で約1000兆円に近い当初証拠金が必要になるそうです。そこで、ISDAは、BCBSらの考える証拠金規制は、デリバティブ取引市場の流動性や効率性を損ねかねない厳しすぎる規制であると言っています。また、ISDAは、変動証拠金の担保管理を徹底、自己資本規制、清算集中義務などによりデリバティブ取引から生じうるシステミック・リスクは相当程度削減できており、そんなに厳しい証拠金規制を課さなくてもいいんじゃないかといことも述べています。

3 グロスベースで証拠金を要求するとCSAはどうなるの?

現在は、信用力の低い当事者が信用力の高い当事者に対して、信用リスクに対応した独立担保額(Independent Amount)が設定され、デリバティブ取引自体から生じたエクスポージャーに独立担保額を加えて、実際の担保差入金額である信用保証額(Credit Support Amount)を算定しています。すなわち、正・負を無視して算式で表すと「独立担保額+エクスポージャー=信用保証額」ということになります。

これがグロスベースであることが義務付けられると、CSAにおいては、まず両当事者について独立担保額を設定する必要がでてきます。さらに、独立担保額とエクスポージャーをネットできないことから、信用保証額という形でまとめて1つに合算することはできず、両当事者の担保額をそれぞれ規定する必要がでてくると思われます。

4 差入担保の返還請求-信託の利用?

当初証拠金を求めるような場合においては、デリバティブ取引から生じるエクスポージャー以上の超過担保が生じることになると思われますしかし、日本法においては、超過担保分については、倒産手続きにおいて優先権の与えられない一般の倒産債権とされています(裁判例あり)。そこで、市中協議書の提案にもあるように、差入担保の返還請求権を法的に保護してやる必要があります。

保護の方法として、日本法上考えられるのが信託です。しかし、信託を利用するとなるとコストがかさむという問題があります。