デリバティブ取引における自己資本規制と証拠金規制
今回はデリバティブ取引における自己資本規制と証拠金規制についてです。
2009年9月のG20のピッツバーグ・サミットを受けて、中央清算機関(CCP)を通じて決済されないデリバティブ契約(非CCP取引)は、より高い所要自己資本賦課の対象となりました。さらに、2011年11月のカンヌ・サミットで非CCP取引についての証拠金規制の枠組みを設けることが決定されました。
1 なぜ非CCP取引には高い自己資本や証拠金が要求されるのか?
非CCP取引において高い自己資本や証拠金を要求する理由は、CCPで決済されるデリバティブではCCPによりシステミック・リスクの吸収が可能ですが、非CCPではシステミックリスクを吸収できていないため、取引当事者自身がデリバティブ取引におけるリスクを吸収できるだけの体力が要求されるためです。他人に迷惑をかけないよう、十分体を鍛えときなさいということです。
また、高い自己資本や証拠金を要求することで、CCPを利用するインセンティブを与えるという意味合いもあります。
自己資本規制と証拠金規制の違いは、お金の出所がにおいて違いがあります。すなわち、自己資本の場合は、非破綻当事者が自身のお金でリスクを吸収する必要があるのに対し、証拠金は破綻当事者がお金を予め預け入れ、そのお金でリスクを吸収することになります。
2 デリバティブ取引における自己資本規制・証拠金規制の枠組み
サミットの要請を受け、バーゼル委員会が自己資本規制および証拠金規制の枠組みを策定しています。ルール作りの進展具合は、2013年10月4日時点で下記の通りとなっています。
①中央清算されないデリバティブ取引に係る証拠金規制
証拠金規制に関して、バーゼル委員会は、2013年9月2日に「自己資本規制におけるデリバティブ取引の取り扱い」の最終報告書を公表しています。
証拠金には取引開始時に要求される当初証拠金と、エクスポージャーの変動に伴い追加で要求される変動証拠金に分けられています。当初証拠金には、5千万ユーロ以下のエクスポージャーについては証拠金は不要とする閾値(Threshold)が設けられるが、変動証拠金にはそのような閾値はないようです。
当初証拠金に関する規制は、2015 年12 月から、4 年間に亘って段階的に適用されることになっています。
②カウンターパーティ信用リスク・エクスポージャーへの資本賦課に関する非内部モデル手法(Non Internal Model Method / NIMM)
2013年6月28日に、デリバティブ取引の相手方の信用リスクの算定方法の改善に向けた提案がなされています。
この提案は、証拠金取引(Margined Trade)と非証拠金取引(Non Margined Trade)を区別することで、現在のリスク評価手法を改善するものです。NIMMは様々なデリバティブ取引に対応しており、銀行による裁量を減らし、複雑さを軽減する手法とされています。
③銀行による清算機関へのエクスポージャーに関する資本の取扱い
2013年6月28日に、CCP取引に伴う銀行の資本規制についての提案がなされています。この提案は2012年7月にバーゼル委員会で発表された中間枠組みに取って代わるものです。2012年中間試案において、ルールをそのまま適用すると、非CCP取引よりCCP取引の方が自己資本賦課の割合が高いケースが生じるCCP取引へのインセンティブが阻害されるという不都合があったため、それに対応する修正がなされています。