デリバティブ取引の当初価値がマイナスなことについて
デリバティブ取引の当初価値が金融機関の手数料やマージンの関係上、顧客にマイナスに設計されていることは何度か書いたと思います。
銀行関係者はマイナスであることは当然だし何も悪くないと言います。確かに、当初価値がマイナスであることについては、銀行も営利企業である以上それは仕方ないと思います。それは否定しません。例えば、マンションを買っても不動産屋に支払う手数料などが市場価格に上乗せされているでしょううから、買い手はマイナスのスタートということになります。
ただ問題なのは、抜いた部分の金額とそれを説明したのかということです。
複雑でない通常の取引であれば顧客はどのくらいのマージンを支払っているかある程度は想像がつきます。りんご100円で買ったら、20円くらいかなと。しかし、デリバティブ取引の時価評価は複雑で、どのような金額を金融機関に支払っているのか一般の事業会社はわかりません。
また自分たちの手数料などの利益は営業秘密であり明らかにする必要がないというかもしれません。確かに、さきほどのリンゴの例などの小さな取引であればお店側はわざわざこれだけ儲けてますよということ大っぴらにはしません。しかし、デリバティブの時価評価はブラックボックスになって顧客はどれだけ手数料を支払っているのか分かりません。
他の分野に目を向ければ、不動産取引では宅建業法上、手数料額は明示しなければいけませし、取れる金額に限度(3%ぐらい)があります。また、通常のローンでも利息制限法で利率限度額があり、利率は明示していると思います。しかし、デリバティブ取引は手数料の金額の説明義務もないですし、その利益の限度額もありません。だからこそ、投資銀行マンがデリバティブ取引のセールスでものすごい利益をあげられたわけなんですが。
この点について、最近ドイツの最高裁でデリバティブ取引の当初価値を、業者が顧客に説明しなかったことについが説明義務違反があるとの判断をしたそうです(BGH Urt. V. 22.3.2011, BGHZ189,13)。妥当な判断と思います。
確かに、現在金融機関ごとに時価評価の方法は異なっており、その方法自体が営業秘密として開示されていません。そうすると、手数料を明示しろと言ってもそれぞれ金融機関によってバラバラな金額が出てきてしまい、手数料の説明と限度額の規制を行うのは難しいかもしれません。ですので、まずは今まで営業秘と突っぱねられていた時価評価方法を金融機関において開示させ、評価方法を統一させる規制が必要と思われます。FVA(Funding Valuation Adjustment)の議論もはじまったばかりですし、なかなか時間がかかりそうですが。。