Connecting the Dots

米国証券法、デリバティブ、香港証券市場について学んだことを書いていきます。当ブログは法的アドバイスを提供するものではありません。ブログ中の意見にわたる部分は個人的見解であり、私が所属する事務所の見解を述べるものではありません。

CSAの準拠法ってどれを選択するといいの?

Credit Support Annex(CSA)は日本法、NY法、UK法準拠の3つのひな形があります。担保を取得する場合に、どのひな形を使うのがいいのでしょうか。

この点についてはISDAのCollateral Opinionでも検討しているんですが、私も全く同じ意見です。すなわち、JGB、JASDEC振替債、日本円を担保にする場合には、日本法準拠のCSA(消費貸借構成)を採用するか、NY法やUK法のひな形を使ってもJapanese Amendmentを必ず入れるべきだと思います。なぜそのような結論になるのか、理由は下記のとおりです。

1 NY法はなぜダメなのか

NY法は法的性質はPledgeとされています。Pledgeというと日本語でいうと質権と訳されますが、その中身は日本法にいうところの質権とは若干異なっています。どこが違うかというと、質物の譲渡や売却が認められるかという点です。金融機関が株や社債を他人から借りて取引を行うという貸借取引(レポ取引)を行っていることからしてみても、金融機関にしてみれば担保物が自由に処分できるかどうかというのは重要なファクターになってきます。

(1)質物を売却できるか?

日本法で質権というと転質(rehypothecation)は認められていますが、質物の利用はあくまで別途担保に提供する目的での利用に限られ、質物を譲渡、売却することは認められていません。一方、NY法のPledgeというのは質物を、日本法と異なり、質物を自由に譲渡、売却することを認めています。

 では、NY法を選択したときに契約書に書いているからという理由で、質物を自由に処分できるという質権が日本において認められるでしょうか。これは物権法定主義という理念的な観点からも、振替機関のシステム上の観点からも、質物を自由に処分はできないと考えられます。

①物権法定主義

物権の内容は法律で決められるという原則からすると、法律で決まっている質権の内容を当事者の合意で勝手に覆すことはできないと考えられます。

②振替機関の問題

振替債に質権を設定する場合、JASDECや日銀ネットで質権欄に登録することが要求されます。振替債は、振替機関のシステム上も転質の登録を行うことは可能です。しかし、質権欄に記載されている質物を、担保権の実行以外で質権者が売却することは認められません。

(2)更生手続における制約

Pledgeは、担保権として扱われるので、会社更生手続において担保権の実行が制約され回収が遅れが出てしまいます。

 したがって、NY法は担保物が自由に処分できない、更生手続きの制約をうけるという点がデメリットとなります。

2 UK法はなぜダメなのか

UK法はTitle Transferという対象物を完全に受入側に譲渡し、契約精算時にISDAマスターの債権債務とまとめて清算するという方式を採用しています。この方式は、対象物を自由に処分でき、しかもPledge方式と異なり担保物権としては考えられていません。譲渡担保とも法的性質は異なるものだという建前になっています。ただ、日本の裁判所が実質をみてこれは譲渡担保だと性質決定する可能性は否定できません。

したがって、UK法は、譲渡担保と性質決定され、更生手続きの制約をうけるというリスクがあります。

 3 日本法について

質権構成と消費貸借・相殺構成が選択できます。前の記事でも書きましたが、対象物を自由に利用でき、更生手続の制約を受けない消費貸借構成を選択すべきと思われます。

ちょっと話がずれますが、現金(Cash Deposit)に質権を設定するという場合には注意が必要です。どういうことか、具体的にA(担保権設定者)がB(担保権者)に現金を差し入れる場合を考えてみます。

①A名義の口座に現金をいれて、その口座に担保権を設定する場合

この場合は、口座質と言えます。その場合、対抗要件として第三債務者である銀行から確定日付のついた承諾書を取るべきです。もっとも、普通預金質はその有効性が明確ではありません。

②B名義の口座にAが現金を入れた場合はどうでしょうか

質権は、所有権は質権設定者、占有は質権者が保持する物権です。B名義の口座に現金を移した場合には、現金は占有と所有が一致するので、Aはすでに所有権を失い、Bが現金の所有権を取得することになります。したがって、このような場合には質権は成立しないことになります。Bの下にお金が移ってしまった場合は、AからBが現金を借り受けたという消費貸借構成にならざるをえないと思われます。

 ③まとめ

すなわち、現金に質権を設定するには、あくまで担保設定者の口座にお金をいえる必要があり、誤って担保権者の口座にお金をいれてはダメです。逆に、現金の消費貸借構成にするのであれば、借主(担保権者)の口座にお金をいれる必要があり、貸主(担保権者設定者)の口座にお金を残しておくことは認められません。

仮に、契約書で消費貸借構成を選択したとしても、実際にやっていることが、貸主の特定の口座にお金を振り込むだけということをやっていると、それは質権と見なされる可能性が高いので気をつけなければいけません。逆も然りです。

 

4 片方だけが差入義務を負う場合は(One way 方式)

以上の検討はあくまで両当事者が、担保物を差入れるという前提での話です。仮に、片方当事者だけが差入れ義務を負う場合には話が変わってきます。仮に担保設定者の立場に立つと、担保物は自由に使ってほしくないでしょうし、自己の更生手続きでもできれば担保権の実行を制約したいでしょうから、消費貸借より質権方式が望まれると思われます。