Connecting the Dots

米国証券法、デリバティブ、香港証券市場について学んだことを書いていきます。当ブログは法的アドバイスを提供するものではありません。ブログ中の意見にわたる部分は個人的見解であり、私が所属する事務所の見解を述べるものではありません。

米国証券法−短期売買差益(Short Swing Profit)について

今回は米国証券法における短期売買差益についての投稿です。

1 短期売買差益の返還 (Short Swing Profit)の概略

米国証券法16条に短期売買差益の返還の規定があります。この規定は、6ヶ月の期間に内部者が自社株の取引を行うことによって得た利益を剥奪することにより、インサイダー取引を防止すること目的としています。内部者が取引によって得た利益は会社に戻すことになります。このルールは厳格に適用されるため、しばしば不都合な結果を招くことがあるようです。内部者が取引によって得た利益は会社に戻すことになります。具体的には下記のようなルールとなっています。

①役員、使用人および、10%超の持分証券を保有する株主に適用があります。10%の要件は売却および購入のとき両方に置いて満たしている必要があります。

②登録会社のみ適用となっています

③6ヶ月の期間で得た利益が対象です。

④株主代表訴訟を行うことも可能です。

2 本件ルールで留意すべき点

·      10%ルールについて

ある者が10%になった取引自体は算定の取引には入りません。例えば、9%の株主が30%の株式を購入した場合には、当該取引は通算されません。11%の株主の取引は通算されますが、株主が1.1%を株式を売却して、その後5%の株式を購入した場合には、5%の取引関しては通算されない。

·      例外(Kern 事件)

Short Swing Ruleは極めて厳格にに運用されていますが、判例法上、下記の2つの要件が見たされれば、例外も認められます。

①取引が非自発的であり、かつ

②当該事情が内部情報の投機的な乱用として認められない

·      潜脱

適用が厳格な反面、規定を潜脱をするのも簡単です。例えば、6ヶ月1日後に取引を行えば、本規定の適用はうけないことになります。

·      日本における短期差益売買

日本においても、米国とほぼ同様の短期差益売買の規定を金商法164条において規定しています。ある会社の役員又は主要株主(10%以上)が、当該会社株式の買付けまたは売付け後6か月以内に売付けまたは買付けをして利益を得たと認められた場合は、会社側は当該役員又は主要株主に対し、それによって得られた利益を会社に提供することを請求できます。

3 ケーススタディ

①ケース1 

一男はソニーの取締役である。一男はソニーの株式を100株保有している。2013年1月1日に一男は100株を30ドルで売却。その後、株価が下がったので、2013年3月1日に300株を10ドルで購入した。さらに、一男は5月1日に300株を50ドルで売却した。

(回答)

取引は利益が最大になるようマッチングさせる必要があります。1月1日の30ドルの売却より、5月1日の50ドルの売却の方が、利益が最大化するので、1月1日の取引は算定の対象とはなりません。300株を10ドルで購入し、50ドルで売却したので、合計12,000ドルを会社に返還する必要があります。

 ②ケース2

トシヒロはトヨタ会社の役員で、以下のような取引を行った。

2013年6月1日  買い 100株・50ドル 

2013年7月1日  売り 100株・40ドル

2013年8月1日  買い 100株・30ドル

2013年9月1日  売り 100株・20ドル

トシヒロは、会社に短期売買差益を返還する必要があるか?

(回答)

高い値段で買い、安い値段で売っているので、実質的には一連の取引でジェニーは利益をあげていません。すなわち、2回目の取引で1000ドル損失し、さらに4回目の取引で1000ドル損失し、ジェニーは一連の取引で利益を上げていません。しかし、この場合にも、取引は利益が最大になるようにマッチングさせる必要があります。買いが100株・30ドルで売りが100ドル40ドルの取引をマッチングさせることで、一連の取引で利益が最大化することになります。従って、ジェニーは1000ドルを会社に返還する必要があります。このようなケースが本ルールが不都合な結果を招く典型例といえるでしょう。

 ③ケース3

ホンダの発行済株式数は100,000株であり、ケンタは、ホンダ株について、以下の取引を行った

ケンタは9,900株(9.9%)を保有

1月1日 買い 1,000株・20ドル(10.9%となる)

2月1日 売り 4,900株・40ドル(6%となる)

3月1日 買い 10,000株・45ドル(16%となる)

4月1日 買い 2,000株・35ドル(18%となる)

(回答)

算定の対象になるのは、取引時点で10%を超えている取引です。したがって、1月1日および3月1日における取引は、当該取引時点で10%を超えていないことから、対象にはなりません。なお、10%を超えた次の取引から算定の対象になる点は注意すべきである。残りの取引を比べると売りの40ドルと買いの35ドルであり、マッチングする取引数は2,000株です。従って、2,000×(40ドルー35ドル)=10,000ドルをケンタは短気売買差益として会社に返還する必要があります。