Connecting the Dots

米国証券法、デリバティブ、香港証券市場について学んだことを書いていきます。当ブログは法的アドバイスを提供するものではありません。ブログ中の意見にわたる部分は個人的見解であり、私が所属する事務所の見解を述べるものではありません。

駒沢VSドイツ証券-デリバ訴訟

駒沢大学が、ドイツ証券に対し、デリバティブ取引によって約69億円の損失を蒙ったとして損害賠償請求をした事件の判決を読みました(東京地裁平成25年4月16日)。

 

結果は、駒沢が敗訴し、現在控訴中のようです。

 

本裁判において駒沢が突破すべき第一の関門が、この解約合意書の解釈論争でした。

解約合意書の文言は、下記のように規定されていました。

Termination: In consideration of and subject to the payment by the Komazawa to Deutsche under paragraph 2 below, the right, obligation and liabilities of Deutsche and the Komazawa and of their respective affiliates, subsidiaries, officers, employees and agents under the Transactions are mutually terminated and discharged.  Each party hereto acknowledges that, except as provided herein, no payments, deliveries or amounts are owed to it by the other party hereto under or with respect to the Transactions. 

 

すなわち、駒沢側は、上記の条項は単なるデリバティブ取引における中途合意解約に過ぎず、適合原則違反に基づく損害賠償請求権までは放棄していないと主張しました。

 

一方で、ドイツ証券は、合意解約にとどまらず、契約から生じる一切の債権債務を清算する清算条項であり、駒沢は一切の請求が認められないと主張しました。

 

解約合意書の準拠法は日本法とされていましたが、双方とも自己の主張を補強するために英米法との比較を持ち出している点も興味深いです。すなわち、駒沢側は「不明確な文言は、文書作成者の不利に解釈」するという英米法の準則を持ち出し、ドイツ証券が解約合意書を作成したのであるから、ドイツ証券に不利に解釈すべきという主張を展開しました。一方で、ドイツ証券は英米法はParol Evidence Ruleがあることから文言が長たらしくなるが、日本法はそのようなルールはないことから簡潔なもので足りるという主張をしました。

 

裁判所は、解約合意書は、日本法上、dischargedとの文言から将来の紛争に関する免責も含む清算条項と判断し、駒沢の損害賠償請求権は消滅したと判断しました。

 

以下は個人的な感想です。駒沢は、合意解約書の詐欺取消とか錯誤無効とか主張するのも一つの手かと思います。

 

確かに、駒沢サイドは、当時、早急に合意解約をしないと経営破綻しかねない状況にあり、ドイツ証券によって書面に同意するような状況にむりやり追い込まれたという強迫取消のような主張をしています。しかし、裁判所のいうように、駒沢が将来の訴訟における債権債務は除くと明記することもできたわけで、強迫という筋はさすがに難しいように思います。

 

推測にはなりますが、恐らく今回のデリバティブ取引のスタート時の時価からマイナス数十億円ぐらいドイツ証券に有利に設計されていたのではないでしょうか。証券会社がかなり自分たちに有利に時価を設定していたのは常識です。駒沢はスタート時のデリバティブ取引の時価を業者に頼んで算定した方がよいと思います。また、合意解約書時点での再構築コストなりを取り直してもよいと思います。きっと、69億円より、かなり駒沢に有利な数字が出てくるところもあると思います。時価や再構築コスト自体がみずものなので。

 

駒沢に有利な数字がとれたら、そのような巨額の利益を得ていることを隠して、合意解約させられたのであるから詐欺である、あるいは、本来の再構築コストについて誤解していたのであるから錯誤であるとの主張ができるような気がします。