ボルカー・ルールと日本のファイアーウォール規制について考える
ボルカー・ルールは、銀行が投機的取引を行うことを禁止すること及び銀行のファンドとの提携禁止をその内容としています。ボルカールールの細かな内容については、他のサイトでも紹介されているので、今回は日本の規制と比較しながら、ボルカー・ルールのような制度をわが国でも導入すべきかについて検討してみたいと思います。
1 米国は銀証分離からユニバーサルバンクへ。日本は銀証分離のまま
米国は、1933年に成立したグラススティガール法に基づき、商業銀行と投資銀行の兼業を禁止していました。しかし、1999年、グラススティガール法は完全に撤廃され、現在は、商業銀行と投資銀行との兼業を認めています(ユニバーサルバンク制)。
一方、日本は、戦後、米国の規制に習い、銀行業務と証券業務の分離規制を導入しました。その後、日本は、ファイアーウォール規制を引きつつも、1993年に業態別子会社形態による相互参入、1998年には持株会社形態による相互参入も解禁しました。規制緩和はあったものの、日本の規制は、持株会社に銀行と証券会社がぶら下がっていることから、証券業務の破綻が銀行へ波及することを防ぐことができ、理屈上は、銀証分離を維持している評価できると思われます。もっとも、日本においても、国際競争力の観点から、2009年に役職員の兼任を認め、また顧客情報の共有の観点からもさらに銀証分離規制は緩められています。
2 ボルカー・ルールは銀証分離規制への回帰なのか?
ボルカー・ルールは、銀行の投資銀行業務を制限するものであり、グラススティガール法における銀証分離規制の側面はあります。しかし、同ルールは、銀行が証券業務を行うこと認めつつも、投機的な取引への歯止めをかけるものであり、グラススティガール法のような厳格な銀行と証券の分離を求めるものではないと評価されています。
3 ボルカー・ルールの米国金融機関の影響
ボルカー・ルールは、要は、銀行はギャンブルみたいなことするなよという当局からのお達っしです。銀行が証券やデリバティブなどで収益をあげることを目指すのではなく、預金者から集めたお金を、企業を育てるために融資するという銀行の本来業務に原点回帰しようということを目指しています。ですから理念的には正しいような気がします。
ただ、米国金融機関が、規制によって世界的な競争から遅れてしまうという批判もあるようです。しかし、リスキーな取引は短期的に利益を上げることができても、巨額の損失を発生させる爆弾を内包しているわけであり、いつその爆弾が爆発するか分かりません。その爆弾が破裂した際は、破綻した金融機関のみならず、他の金融機関や一般事業会社も損害を蒙る可能性が高いことは、リーマンショックにおいてある程度実証されたと言ってよいでしょう。規制により、むしろ変にリスキーな取引に手を出さないことにより、長期的に見るとより強靭な金融機関になりうるための規制とも評価できるかもしれません。
4 日本版ボルカー・ルールを導入すべきか?
ボルカー・ルールは、ユニバーサルバンク制をとっている国において、銀行が投資銀行業務などで破綻することを防ごうとすることが根底にあることから、銀証分離が貫かれている国においては、大枠においてはボルカー・ルールのような規制を導入する必要はありません。したがって、日本においては、現在も銀証分離が原則的に貫かれており、銀行が証券業務で破綻するようなことは理屈上はないので、大枠においてはボルカー・ルールのような規制を改めて課す必要はないと思います。
ただ、日本において銀行がデリバティブ業務をやっていないかと言うとそうではなく、リスクヘッジ目的のためデリバティブ取引を行っています。そのデリバティブ取引にももしかするとヘッジ目的を超えて投機的と評価しうるものが潜んでいるかもしれません。銀行業務においてもデリバティブ取引が必須になってきた現状を考えると銀行がデリバティブ取引を行うことを一律禁止と言うむちゃくちゃな議論はできませんが、より精緻に何がヘッジ取引か何が投機的取引かについて改めて考える必要があります。その指針として、ボルカー・ルールは一つの参考になるかもしれません。