Connecting the Dots

米国証券法、デリバティブ、香港証券市場について学んだことを書いていきます。当ブログは法的アドバイスを提供するものではありません。ブログ中の意見にわたる部分は個人的見解であり、私が所属する事務所の見解を述べるものではありません。

調達資金の使い道をきっちり開示―アーバンコーポレーション事件で思うこと

アーバンコーポレーションの役員に対する株主訴訟判決を読みました。

感じたのは、クライアントにいい顔ばっかりしていたら弁護士生命を断たれかなないなということです。

争点は、アーバンが新株予約権付社債(CB)を発行する際に虚偽記載をしたのではないかということです。

CB発行の際には、臨時報告書を提出しなければなりません。その臨時報告書には、取得資金をどのように使うか記載する必要があります。アーバンはCBで取得した資金を、全額そのまま引受会社であるBNPパリバとのスワップ契約のために使うつもりだったのにそれを開示しませんでした。開示しなかった理由はどうやらBNPパリバがスワップを開示すると市場での株式売却が難しくなることから反対したようです。

ここで2つの大手法律事務所が登場してきます。アーバン側のカウンセルのX法律事務所とBNP側の法律事務所のY法律事務所。

X法律事務所の弁護士Aはスワップ契約が資金の最終的な目的なんだから開示すべきと主張します。一方Y法律事務所の弁護士Bは、過去に前例もあるしそれほど細かく記載しなくても問題ないと主張します。

アーバンはどうしても資金調達が必要な状況にあったので、B弁護士は問題ないと言っているのにとA弁護士を攻め、A弁護士は「私は問題あると思うけど、御社がそう思うなら、その前提で投資家に誤解がないようできるだけ記載しましょう」と結局折れてしまいます。

私も開示のお仕事でよく前例に頼ることがあるのですが、Y法律事務所みたいに前例があるから法的に問題ないと考えるのは危険だなと感じました。

一方で、問題点を的確に指摘したA弁護士は、弁護士としては大変有能だと思います。ただ、結局アーバンの担当者に折れてスワップについては言及しなかったということも事実としては残っています。その事実が責められるべきなのか否か。

アーバンの弁護士はとても難しい立場に立たされていたと思います。スワップについて言及しないのであれば代理人を降りるという選択肢を果たしてとれたでしょうか。とれたのであれば恐らく案件をおりるのが一番ベストな選択だったと思います。

一方で案件をおりるとクライアントを失うことになります。あの先生は案件を途中で放り出したなんて評判がたつかもしれません。さらに、案件がある程度まで進んでいて途中で代理人を降りると案件自体がぽしゃりかねません。案件がぽしゃれば恐らくアーバンはそれがきっかけで倒産していたかもしれません。自分の決断で会社倒産のトリガーを引く勇気があるかどうか。逆に、虚偽記載することにより損害を蒙る投資家もいるわけで数億円という損害賠償義務を負う可能性もあります。

こう考えていくと、問題点を指摘することは当然として、周りの当事者が強硬にその問題点をスルーしようとする中で、弁護士としてどのようにアドバイスをすべきかというのは中々悩ましい問題だなと思います。

デリバティブ取引の当初価値がマイナスなことについて

デリバティブ取引の当初価値が金融機関の手数料やマージンの関係上、顧客にマイナスに設計されていることは何度か書いたと思います。

銀行関係者はマイナスであることは当然だし何も悪くないと言います。確かに、当初価値がマイナスであることについては、銀行も営利企業である以上それは仕方ないと思います。それは否定しません。例えば、マンションを買っても不動産屋に支払う手数料などが市場価格に上乗せされているでしょううから、買い手はマイナスのスタートということになります。

ただ問題なのは、抜いた部分の金額とそれを説明したのかということです。

複雑でない通常の取引であれば顧客はどのくらいのマージンを支払っているかある程度は想像がつきます。りんご100円で買ったら、20円くらいかなと。しかし、デリバティブ取引の時価評価は複雑で、どのような金額を金融機関に支払っているのか一般の事業会社はわかりません。

また自分たちの手数料などの利益は営業秘密であり明らかにする必要がないというかもしれません。確かに、さきほどのリンゴの例などの小さな取引であればお店側はわざわざこれだけ儲けてますよということ大っぴらにはしません。しかし、デリバティブの時価評価はブラックボックスになって顧客はどれだけ手数料を支払っているのか分かりません。

他の分野に目を向ければ、不動産取引では宅建業法上、手数料額は明示しなければいけませし、取れる金額に限度(3%ぐらい)があります。また、通常のローンでも利息制限法で利率限度額があり、利率は明示していると思います。しかし、デリバティブ取引は手数料の金額の説明義務もないですし、その利益の限度額もありません。だからこそ、投資銀行マンがデリバティブ取引のセールスでものすごい利益をあげられたわけなんですが。

この点について、最近ドイツの最高裁でデリバティブ取引の当初価値を、業者が顧客に説明しなかったことについが説明義務違反があるとの判断をしたそうです(BGH Urt. V. 22.3.2011, BGHZ189,13)。妥当な判断と思います。

確かに、現在金融機関ごとに時価評価の方法は異なっており、その方法自体が営業秘密として開示されていません。そうすると、手数料を明示しろと言ってもそれぞれ金融機関によってバラバラな金額が出てきてしまい、手数料の説明と限度額の規制を行うのは難しいかもしれません。ですので、まずは今まで営業秘と突っぱねられていた時価評価方法を金融機関において開示させ、評価方法を統一させる規制が必要と思われます。FVA(Funding Valuation Adjustment)の議論もはじまったばかりですし、なかなか時間がかかりそうですが。。

イギリスの中央銀行の力が強くなり、名前がややこしくなる

今日のテーマはイギリスの金融当局についてです。

20134月、英金融サービス法の施行により、UK FSAが廃止され、イギリスの金融当局が、FPC (Financial Policy Committee) PRA (Prudential Regulatory Authority) FCA (Financial Conduct Authority)とに分けられました。

ややこしい!!たった3つの組織ですが、仕事でお目にかかることのあるFCA以外の2つの組織の名前は未だにしっくりきません。

1 役割分担

役割分担は、FPCがマクロ・プルーデンス的な観点からの規制、PRAがミクロ・プルーデンス的な観点からの規制、FCAが消費者保護の観点から金融商品取引業者の行為規制というになっています。プルーデンスっていってもいまいちピンときませんが、日本語に置きなせば「金融の安定」といった程度の意味です。

マクロ・プルーデンスでは、個々の金融機関の財政安定というよりは、仮に1つの金融機関が破綻したときに経済への影響を最小限にくいとめるための方策を検討することになります。具体的にはCCPとかの決済システム全体の安定性を規制することになります。一方、ミクロ・プルーデンスでは、個々の金融機関が健全経営をしているかどうかを検討することになります。どの業者にライセンスをあたえるかとか、銀行に立ち入りをして行政処分をしたりすることです。

金融当局それぞれの役割をまとめると下記のとおりなります。

英名

役割

コメント

FPC

マクロ・プルーデンス

Bank of England(BOE)=中央銀行の組織の1つ。

システミックリスクの防止

PRA

ミクロ・プルーデンス

中央銀行の子会社。

重要な金融機関の経営基盤に目を光らせている。ライセンス規制などを行っている。

FCA

行為規制

消費者保護のための組織。

事業会社の開示規制、インサイダー取引、金融商品による詐欺などに目を光らす。

 

2 ややこしくしたワケは?

組織再編のきっかけは、リーマンショックの時に世界経済が一気に落ち込んでしまったことです。その原因の1つとして、イギリスの財務省、中央銀行、FSAといった金融当局の連携がうまくいっておらず規制に隙間が生じていたことが指摘されています(ターナー・レビュー)。

今回の組織再編の肝は、FSAが単純にPRAとFCAに分かれたというより、中央銀行に銀行監督の権限を戻したことにあります。

リーマンショック前の1998年に、銀行の監督権限は中央銀行から取り上げられ、FSAに移されました。中央銀行はシステミックリスクについての研究はやっていたけど、力を奪われていたので規制を強制する力がなかった。中央銀行は、規制当局というよりは、大学の研究所の延長みたいな感じになっていました。

しかし、リーマンショック後、システミックリスクが認識され、個々の金融機関に対する規制だけではなく、より大きな視点で規制することの重要性が認識されました。システミックリスクについては中央銀行のオハコです。そこで、マクロプルーデンスに関する組織を中央銀行に作り、金融安定のため銀行の監督権限を中央銀行に再び戻すことになりました。

そして、ミクロ・プルーデンスは、マクロ・プルーデンスとアプローチこそ違いますが、その目的は同じプルーデンス(金融の安定)で共通なわけで、ミクロを担当するPRAは中央銀行の直轄の組織となりました。そして毛色の違う消費者保護のための行為規制という役割を、独立したFCAという組織が担うことになりました。

3 日銀は単なるご意見番?

日本では銀行の監督権限は金融庁が握っていて、日銀にはないと思います。日銀は権限がないことから、組織再編前のイギリスの中央銀行と同じように、単なる研究機関のようになっているところがあるのではないでしょうか。実際に、システミックリスクについての規制策定を行っているのは、日銀ではなく金融庁です。日銀の情報・研究成果が金融庁にうまく伝われば根本的な問題は解決できるのでしょうが、マクロ・プルーデンスにおいて日銀と金融庁で役割の重複という点で何らかの無駄が生じているような気もします。この際、日銀は単なるご意見番にとどまらず、システミックリスクについてのルールは自分が作るというような権限も持ってもいいように思います。

駒沢VSドイツ証券-デリバ訴訟

駒沢大学が、ドイツ証券に対し、デリバティブ取引によって約69億円の損失を蒙ったとして損害賠償請求をした事件の判決を読みました(東京地裁平成25年4月16日)。

 

結果は、駒沢が敗訴し、現在控訴中のようです。

 

本裁判において駒沢が突破すべき第一の関門が、この解約合意書の解釈論争でした。

解約合意書の文言は、下記のように規定されていました。

Termination: In consideration of and subject to the payment by the Komazawa to Deutsche under paragraph 2 below, the right, obligation and liabilities of Deutsche and the Komazawa and of their respective affiliates, subsidiaries, officers, employees and agents under the Transactions are mutually terminated and discharged.  Each party hereto acknowledges that, except as provided herein, no payments, deliveries or amounts are owed to it by the other party hereto under or with respect to the Transactions. 

 

すなわち、駒沢側は、上記の条項は単なるデリバティブ取引における中途合意解約に過ぎず、適合原則違反に基づく損害賠償請求権までは放棄していないと主張しました。

 

一方で、ドイツ証券は、合意解約にとどまらず、契約から生じる一切の債権債務を清算する清算条項であり、駒沢は一切の請求が認められないと主張しました。

 

解約合意書の準拠法は日本法とされていましたが、双方とも自己の主張を補強するために英米法との比較を持ち出している点も興味深いです。すなわち、駒沢側は「不明確な文言は、文書作成者の不利に解釈」するという英米法の準則を持ち出し、ドイツ証券が解約合意書を作成したのであるから、ドイツ証券に不利に解釈すべきという主張を展開しました。一方で、ドイツ証券は英米法はParol Evidence Ruleがあることから文言が長たらしくなるが、日本法はそのようなルールはないことから簡潔なもので足りるという主張をしました。

 

裁判所は、解約合意書は、日本法上、dischargedとの文言から将来の紛争に関する免責も含む清算条項と判断し、駒沢の損害賠償請求権は消滅したと判断しました。

 

以下は個人的な感想です。駒沢は、合意解約書の詐欺取消とか錯誤無効とか主張するのも一つの手かと思います。

 

確かに、駒沢サイドは、当時、早急に合意解約をしないと経営破綻しかねない状況にあり、ドイツ証券によって書面に同意するような状況にむりやり追い込まれたという強迫取消のような主張をしています。しかし、裁判所のいうように、駒沢が将来の訴訟における債権債務は除くと明記することもできたわけで、強迫という筋はさすがに難しいように思います。

 

推測にはなりますが、恐らく今回のデリバティブ取引のスタート時の時価からマイナス数十億円ぐらいドイツ証券に有利に設計されていたのではないでしょうか。証券会社がかなり自分たちに有利に時価を設定していたのは常識です。駒沢はスタート時のデリバティブ取引の時価を業者に頼んで算定した方がよいと思います。また、合意解約書時点での再構築コストなりを取り直してもよいと思います。きっと、69億円より、かなり駒沢に有利な数字が出てくるところもあると思います。時価や再構築コスト自体がみずものなので。

 

駒沢に有利な数字がとれたら、そのような巨額の利益を得ていることを隠して、合意解約させられたのであるから詐欺である、あるいは、本来の再構築コストについて誤解していたのであるから錯誤であるとの主張ができるような気がします。

ボルカー・ルールと日本のファイアーウォール規制について考える

ボルカー・ルールは、銀行が投機的取引を行うことを禁止すること及び銀行のファンドとの提携禁止をその内容としています。ボルカールールの細かな内容については、他のサイトでも紹介されているので、今回は日本の規制と比較しながら、ボルカー・ルールのような制度をわが国でも導入すべきかについて検討してみたいと思います。

1 米国は銀証分離からユニバーサルバンクへ。日本は銀証分離のまま

米国は、1933年に成立したグラススティガール法に基づき、商業銀行と投資銀行の兼業を禁止していました。しかし、1999年、グラススティガール法は完全に撤廃され、現在は、商業銀行と投資銀行との兼業を認めています(ユニバーサルバンク制)。

一方、日本は、戦後、米国の規制に習い、銀行業務と証券業務の分離規制を導入しました。その後、日本は、ファイアーウォール規制を引きつつも、1993年に業態別子会社形態による相互参入、1998年には持株会社形態による相互参入も解禁しました。規制緩和はあったものの、日本の規制は、持株会社に銀行と証券会社がぶら下がっていることから、証券業務の破綻が銀行へ波及することを防ぐことができ、理屈上は、銀証分離を維持している評価できると思われます。もっとも、日本においても、国際競争力の観点から、2009年に役職員の兼任を認め、また顧客情報の共有の観点からもさらに銀証分離規制は緩められています。

2 ボルカー・ルールは銀証分離規制への回帰なのか?

ボルカー・ルールは、銀行の投資銀行業務を制限するものであり、グラススティガール法における銀証分離規制の側面はあります。しかし、同ルールは、銀行が証券業務を行うこと認めつつも、投機的な取引への歯止めをかけるものであり、グラススティガール法のような厳格な銀行と証券の分離を求めるものではないと評価されています。

3 ボルカー・ルールの米国金融機関の影響

ボルカー・ルールは、要は、銀行はギャンブルみたいなことするなよという当局からのお達っしです。銀行が証券やデリバティブなどで収益をあげることを目指すのではなく、預金者から集めたお金を、企業を育てるために融資するという銀行の本来業務に原点回帰しようということを目指しています。ですから理念的には正しいような気がします。

ただ、米国金融機関が、規制によって世界的な競争から遅れてしまうという批判もあるようです。しかし、リスキーな取引は短期的に利益を上げることができても、巨額の損失を発生させる爆弾を内包しているわけであり、いつその爆弾が爆発するか分かりません。その爆弾が破裂した際は、破綻した金融機関のみならず、他の金融機関や一般事業会社も損害を蒙る可能性が高いことは、リーマンショックにおいてある程度実証されたと言ってよいでしょう。規制により、むしろ変にリスキーな取引に手を出さないことにより、長期的に見るとより強靭な金融機関になりうるための規制とも評価できるかもしれません。

4 日本版ボルカー・ルールを導入すべきか?

ボルカー・ルールは、ユニバーサルバンク制をとっている国において、銀行が投資銀行業務などで破綻することを防ごうとすることが根底にあることから、銀証分離が貫かれている国においては、大枠においてはボルカー・ルールのような規制を導入する必要はありません。したがって、日本においては、現在も銀証分離が原則的に貫かれており、銀行が証券業務で破綻するようなことは理屈上はないので、大枠においてはボルカー・ルールのような規制を改めて課す必要はないと思います。

ただ、日本において銀行がデリバティブ業務をやっていないかと言うとそうではなく、リスクヘッジ目的のためデリバティブ取引を行っています。そのデリバティブ取引にももしかするとヘッジ目的を超えて投機的と評価しうるものが潜んでいるかもしれません。銀行業務においてもデリバティブ取引が必須になってきた現状を考えると銀行がデリバティブ取引を行うことを一律禁止と言うむちゃくちゃな議論はできませんが、より精緻に何がヘッジ取引か何が投機的取引かについて改めて考える必要があります。その指針として、ボルカー・ルールは一つの参考になるかもしれません。

ロンドンの鯨について

20131210日に、FRBなどが銀行の自己勘定取引を制限するボルカールールの最終案を公表したそうですが、業務が忙しくまだ読めていません。

今回は、ボルカールールの最終案公表を受けて改めて、ボルカールールによる規制をより後押しするきっかけとなったとされる「ロンドンの鯨」事件について考えてみたいと思います。

1 ロンドンの鯨事件のあらまし

20124月から10月にかけて、JPモルガンのトレーダーであるイクシル(Bruno Iksilが行ったCDS取引によって同社に62億ドル相当の損失が発生したことが明らかになりました。このイクシルさんの取引手法はとても攻撃的だったことから市場では「ロンドンの鯨」と呼ばれていたそうです。ロンドンの鯨事件とたいそうな名前がついていますが、簡単に言ってしまえば、デリバティブで金融機関が大損こいたといった話にすぎません。事件の経過は下記の通りです。

2005

American Airline の破産申請により二流企業CDS買いポジションから利益を得る一方で、一流企業CDSポジションを売ることで4億ドル利益をあげる。

201112

自己資本必要額を引き下げるためRisk Weighted Assetsを引き下げるよう指示

20121

二流企業CDSポジションの買いを続けるとともに、一流企業CDSポジションの売りポジションをさらに膨らませて、ポートフォリオ全体でも売り越しとなる。

20124

損失発覚

 

事件の詳細についてはこちらでよくまとまっています。

2 問題点

①ヘッジ取引と投機的な取引の区別はできるのか

ロンドンの鯨がなぜ発生したのでしょうか。イクシルが所属していた部署は、JPモルガングループ全体のリスクをマクロ的にヘッジするための部署でした。すなわち、イクシルが所属していた部署自体は、投機的な取引を行うための部署ではなく、会社をマクロ的なリスクから守るというそれなりの大義のある部署だったのです。

事件後もJPモルガンの関係者は、行った取引はあくまでリスクヘッジ取引であり、投機的な取引でなかったと主張したそうです。ただ、ポートフォリオをみる限り、やはりその主張には無理があって、金融関係者からはどうみても投機的取引だろという総ツッコミを受けています。ただ、JPモルガンの主張は無茶苦茶かもしれませんが、その主張にはデリバティブ取引の問題の本質が内在しているのかもしれません。すなわち、何がヘッジ取引なのか何が投機的な取引なのかの区別が難しいということです。

ボルカールールもあくまで投機的な取引を自己勘定で行うことを禁止するだけで、リスクヘッジ取引をすることまで制限はしていません。金融機関にリスクヘッジ取引まで規制してまうことは現在では考えられないわけで、ボルカールールにおいて投機的な取引との線引きがどこにされているかは留意するみておく必要があります。

②デリバティブの時価評価の問題

62億ドルという損失がいきなり計上された要因の一つとしては、イクシルがデリバティブ取引の日々の値洗いを適切に行っていなかった(中値をとっていなかった)ことが指摘されています。勝手に一社員が、数億円規模になるデリバティブ取引の時価評価をいじることができたという環境自体が問題ですよね。

ただ、事件後もデリバティブ規制は進んでおり、デリバティブ取引の時価評価に齟齬がないか当事者間でチェックしあい、取引自体が当局に報告されることになりました。従って、これからは一社員がデリバティブの時価評価をいじるというのは難しくなるのではないでしょうか。

あと個人的に注意しなければいけないと思うのが、JPモルガンが62億ドル損失計上したといっても、現実に62億ドルの金銭を支払ったというわけではないという点です。この62億ドルというのはあくまで小難しい計算式の基づいて将来を予測してデリバティブの価値をだいたいこんなもんだろうと予測した結果にすぎません。CDS取引において、どの会社がつぶれて、どの会社が生き残るかなんて誰にもわからないことで、最終的にどんだけ得するか損するかなんて誰にもわからないのです。数十年後にやっぱり62億ドルも金銭支払う必要なくて、プレミアムだけもらい続けるすごくお得な取引でしたということも十分ありうるわけです。デリバティブ取引の時価なんて結構いいかげんなものなのではないでしょうか・・・。

香港における動産担保

香港における動産担保の取り扱いについてよくまとまったサイトを見つけました。

1 香港における動産担保

香港法における動産は、機械類、棚卸資産や船及び飛行機が含まれます。

担保の取り方について、整理すると下記のようになります。

担保の種類

性質

対抗要件

Legal Mortgage

占有については担保権設定者、所有については担保権者が有する。担保権設定者は、被担保債権を弁済することで、所有権を受け戻すことができる。担保権者は、債務不履行があるまで占有を取得することができない。

会社法条例により権利発生から5週間以内に会社登記(Company Registry)をする必要がある。5週間以内に登記しなかった場合には第三者に対抗できない。

※機器類についてはネームプレートを付けるのが実務

※航空機については航空局に通知及びネームプレート

※船については船舶登記する必要あり

Charge

所有権及び占有は担保権者に移転しない。担保権者は、借入人が債務不履行に陥った場合に、担保資産の売却金に対する権利を有する。

会社法条例により権利発生から5週間以内に会社登記(Company Registry)をする必要がある。5週間以内に登記しなかった場合には第三者に対抗できない。

※機器類についてはネームプレートを付けるのが実務

※航空機については航空局に通知及びネームプレート

※船については船舶登記する必要あり

Pledge

(質権)

担保権者への占有の移転を伴う。担保権者は、設定者が債務不履行になった場合、担保資産を売却できる。

担保権者への占有移転

Lien

(先取特権)

被担保債権の弁済がなされるまで、他人の動産を留置することができる権利。Pledgeとの違いは、担保権者が動産を売却できない点にある。

担保権者への占有移転

 

2 香港における登記検索

香港の会社登記に関する一般的な情報はこのサイトから、そして香港で登記された会社はこのサイトから検索できます。詳細な情報を求めない限り、料金は基本的にかかりません。

日本は会社が設定した担保は会社登記簿には記載されませんが、香港においては会社登記簿にどのような担保が設定されているか記録されています。

すなわち、会社の名前さえ分かれば大方の設定担保についてリサーチが可能です。

日本で会社のDue Diligenceする際に、いちいち会社の登記簿だけでなく保有している資産を洗い出して、資産ごとに登記がついているか否かを確認する必要があるのと比べると、大分効率のよいシステムな気がします。日本の登記システムも、会社登記に設定担保を関連付けてほしいです。