Connecting the Dots

米国証券法、デリバティブ、香港証券市場について学んだことを書いていきます。当ブログは法的アドバイスを提供するものではありません。ブログ中の意見にわたる部分は個人的見解であり、私が所属する事務所の見解を述べるものではありません。

サムライ債やユーロCBは会社法の「社債」といえるか?

クロスボーダー案件においては、日本の会社が海外で資金調達をすることや(内→外)、海外の会社が日本で資金調達をすること(外→内)があります。

ここで日本の会社や海外の会社が発行する債券が、会社法上の「社債」に該当するのかが大きな問題となります。なぜなら、会社法上の社債に該当すると、①社債管理会社の設置義務と②社債権者集会の開催が義務付けられ、発行会社としてはその分発行コストが高くなるからです。

1 現状の議論の整理

下記に、現状、クロスボーダー案件で、会社法上の「社債」に該当するか否かの議論を整理してみました。

 

日本→海外

海外→日本

名称

ユーロCB、民間国外債など

サムライ債

会社法上の「社債」なのか?

社債でない

(準拠法が外国法の場合)

社債でない

根拠

準拠法が外国法であれば、外国法の規定により割り当てや償還が行われるから(立法担当官解釈←批判あり)

条文の素直な解釈から、会社法上の社債は、内国会社が発行したものに限られる

デメリット

発行体、引受会社が望まないのに、社債管理会社の設置義務をまのがれるために、社債の準拠法が外国法(主に英国法)になってしまう。

国内の投資家が、社債管理会社や社債権者集会の規定により保護を受けられない。

メリット

英国法が準拠法にすることにより、海外投資家にとっては安心感がある。

海外発行体にとっては、社債管理会社の設置をまのがえることができるので、コストを低く抑えれる。

 

2 日本→海外の場合の問題点-日本のリーガルマーケットが英国に奪われている?

内→外の場合、海外投資家としては、会社法により日本に社債管理会社に設置されようがされまいが気にしないと思います。むしろ、自分たちがどのように保護されるかについては「社債の要綱」に書いて欲しいと思っています。したがって、そもそも海外向けに債券を発行する場合には、会社法を適用する必要がないというのが現実問題としてあります。また、発行体も社債管理会社を設置するコストをかけたくないので、会社法上の「社債」にあたることだけは避けたいと思っています。

こういうことから、内→外の債券発行が、会社法上の「社債」から除かれる必要があるのですが、そこで立法担当官が言ったのが、準拠法を外国法にしたら「社債」でなくなるよということです。そうすると当然、海外で発行する際には、外国準拠法、主に英国準拠法を選択されることになります。

その余波でどういうことが起こるかというと、社債の要綱の準拠法が英国なので、海外オファリングでは必ずイギリス法のリーガルカウンセルが必要となります。逆にいえば、日本人弁護士が出る幕が狭まっているということがいえます。そんなこと日本経済の大局には関係ないのでしょうが、海外オファリングで日本法が構造的に使えないというのは残念な気がします。

上記のような問題が起こるのは、準拠法次第で、会社法の社債になったり、ならなかったりすると考えるからであって、わざわざ社債の準拠法という話を持ち出さなくても、国内会社の海外オファリングは社債でないと言えば丸く解決する話です。

一方で、日本法を準拠法とした場合に、ヨーロッパなどの投資家が嫌がるということがあるかもしれません。しかしその時はマーケットの状況をみて英国法を選択をすればよいという話で、わざわざ法律で間接的に英国法を選択するよう促す必要はないと思われます。

3 海外→日本の場合の問題点―国内投資家の保護が不十分?

外→内の場合、すでに条文上、「外国会社による社債の発行は会社法上の社債でない」と解釈できることから、社債管理会社の設置強制については特段問題は生じていません。むしろこの場合は、逆に、社債管理会社が設置されないことから、国内投資家をどう保護するのかという問題があります。実際、以前にも記事に書きましたが、実際、アルゼンチン政府のサムライ債のケースでは個人投資家が被害をこうむっています。

もっとも、社債管理会社の設置を義務付けるのは、海外発行体の日本への投資を阻害するので望ましくないと思われます。個人投資家の保護は、社債の要綱に集団行動条項を設けるなり、集団訴訟の枠組みを立法で作るなりすることで対処するのがいいかと思われます。

4 解決策は?

上記の、日本→海外の場合に日本法を準拠法として選択できない問題を解消する方法としては、以下の2つの方法が考えられます。

①会社法上の社債は国内会社による国内市場での募集に限定し、社債の定義から、海外オファリング(内→外について。外→内はすでに外れている。)を外すことを明確にする方法

②会社法上の社債の定義自体は広く定義したうえで、社債管理会社の設置義務と社債権者の規定は、国内会社の国内市場での募集にのみ限定する方法

どちらでもいいような気もしますが、どちらの方法を取るのがいいでしょうか。