Connecting the Dots

米国証券法、デリバティブ、香港証券市場について学んだことを書いていきます。当ブログは法的アドバイスを提供するものではありません。ブログ中の意見にわたる部分は個人的見解であり、私が所属する事務所の見解を述べるものではありません。

外国銀行支店の預金者保護

外国銀行支店に預けている預金は、外国銀行が破綻した時に預金保険で保護されるのでしょうか。答えは、ノーです。外銀支店に預けている預金は、預金保険の対象から外れています。2013年1月28日の金融庁の発表でも、外銀支店の預金保護は見送られました。

ちなみに、外国銀行が日本で法人化している場合には預金保護の対象となります。ただ、外国銀行で法人化しているのはシティバンクとSBJ銀行ぐらいしかなく、HSBCやバンカメなどの大手の外国銀行は支店形態で業務を行っています。そういった外国銀行に預金を預け入れる場合には、預金保険の対象外である点注意しなければいけません。

1 どうやって日本の預金者を保護するのか

日本の預金者を保護するために最も大事なポイントは、外銀が破綻する時点において、日本国内に預金者に弁済するための資産を有していることです。海外に資産を移していると、海外でも倒産手続きが始まっているわけで、日本に資産を分けてくれと言ってもおそらく相手にされないでしょう。

日本国内に資産保有させる一番ドラスティックな方法は、外銀が破綻する予兆がある前から、すなわち常に一定の資産を国内に保有することを義務付けることです。

2013年6月12日金商法改正ではこのようなドラスティックな方法は「建前的には」とられませんでした。その理由は、現在外銀支店のビジネスモデルは様々で、リテール預金を全く扱わず、ホールセール業務に特化している銀行もあり、仮に国内資産保有命令を義務づけた場合には、そういった外銀支店業務への影響を配慮したようです。

また、国際協調も平時における国内資産保有義務を課さなかった理由とされていますが、下記②に述べるように危機時には国内保有資産命令を出せるわけで、仮にそんな命令を出すのであれば、国際協調もあったんもんじゃありません。危機時にこそ国際協調が要求されるわけで、危機時に国内保有命令を認めておいて、平時においては国際協調の名の下で国内保有義務を課さないのはしっくりきません。

2 2013年法改正

2013年の法改正では、外銀支店の預金者を保護のために以下のような規制を課すことにしています。

①最低資本金20億円の積み立て義務

従前は利益準備金を20億円積み立てなさいという規制になっていましたが、今回の改正により、利益準備金ではなく資本金の積み立て義務になりました。一方で自己資本比率規制は、バランスシート上資産があっても、実際に資産が日本にないと預金者保護にあまり実効性がないという理由で見送られています。

もっとも、ここで注意しなければならないのは、最低資本金20億円の積み立てというのは、バランスシート上資本金を積み立てればよく、資産は国外にあってもいいという話ではありません。今回の改正では、日本国内に最低資本金20億円に相当する資産を保有することが義務づけられました。これは実質的には、外銀支店に資産の国内保有義務を課しているという評価もできると思います。ですので、前述した「建前的には」資産の国内保有義務を課さなかったというのはこういうわけです。資産の国内保有義務は課さないと言っておきながら、最低資本金規制で国内に一定の資産保有を義務づけているのはなんか二枚舌になっているようでしっくりこないのですが、何か自分が勘違いしているのでしょうか。。。

②国内保有命令に違反した場合の罰則引き上げ

危機時において金融庁は外銀支店に資産を国内に留めおくよう命じることができます。この命令に違反した場合の罰則が法改正により引き上げられました。ただ、現行の国内資産保有命令は、危機時において発動するものであり、監督当局による外銀が危ないぞという情報取得が遅れたり、国際的な協調による制約で、命令のタイミングが遅れることは十分考えられます。ですので、この命令がどれほど効果的に働くかは疑問があります。

③情報提供義務

外銀支店は、預金者に対して、預金保険の対象外である旨情報提供をする義務が課されました。リスクを知って預入れているのだから、預金者としてそのリスクはとってくださいということです。現状でも、外銀支店は任意でそのような情報提供を行っているところが多いようで、実務的に特段の影響が多いものではないようです。

④外国銀行支店の破綻法制

従前は外国銀行支店がつぶれた場合には破綻処理としては、特別清算のみが可能でした。法改正により更生特例法の利用が可能になりました。これにより預金者の保護が劇的に強まるというわけではありませんが、監督当局による金融機関再生のための選択肢が増えたことになります。

3 まとめ

今のところ外銀支店の預金者の保護は、預金保険の対象となってないですし、平時における資産の国内義務は最低資本金に相当する20億円に留まっています。

ただ、現状、外銀支店の預金は、外国人が海外本国に送金するために用いられることが多いようで、日本人が利用することはそれほど多くないようです。そういった事情から、それほど外銀支店の預金を保護する必要性がまだないから、規制についてもそれほど強くなっていないということなのでしょうか。今後、日本人の外銀支店の預金が増えるようであれば、外銀支店の預金者保護をより強化しようという話になるのでしょうが、しばらくそういった傾向は起こりそうもないですね。