Connecting the Dots

米国証券法、デリバティブ、香港証券市場について学んだことを書いていきます。当ブログは法的アドバイスを提供するものではありません。ブログ中の意見にわたる部分は個人的見解であり、私が所属する事務所の見解を述べるものではありません。

日本版JOBS法?−クラウドファンディング規制の導入について

2013年6月26日から、金融庁でクラウドファンディングの導入について検討がなされています。クラウドファンディング(Crowd Funding)とは、新興企業がインターネットを通じて、多数の投資家から少額ずつ集める仕組みをいいます。2012年に米国でクラウドファンディング規制を導入したJOBS法が成立し、あらたな資金調達方法として注目を集めています。新興企業が、インターネットを通じてより手軽に資金調達できるようにしようとするのがクラウドファンディングの肝です。

 

1 現行の金商法下においてインターネットによる資金調達

インターネットを使って大衆から資金調達をすることを考えた場合、現行の規制をまとめると下記のとおりになっていると思われます。

 

 

会社が仲介者を使わず直接資金調達

会社が仲介者(ネット運営者)を使って資金調達

調達方法

株式、社債

匿名組合

株式、社債

匿名組合

開示規制

勧誘者基準なのでインターネットを使うと私募は使えない。

→ほぼ開示が強制

 

ただし、株式募集が1億円未満の場合は有価証券通知書で足りる。

 

取得者が500名以上の場合は開示義務を負う

勧誘者基準なのでインターネットを使うと私募は使えない。

→ほぼ開示が強制

 

ただし、株式募集が1億円未満の場合は有価証券通知書で足りる。

 

取得者が500名以上の場合は開示義務を負う

業規制

自己募集なので登録不要

会社は第二種金融業登録が必要

 

ネット運営者は第一種金融業登録が必要

ネット運営者は第二種金融業登録が必要

コメント

私募に当たる可能性がなく、開示コストが負担になる

事業会社が第二種金融業登録するのはハードルが高い

第一種金融業登録はハードルが高い

 

前例あり

(ミュージックセキュリティーズ)

 

ポイントの1つめは、インターネートを使うと株式、社債においては私募は認められないということです。株式・社債の私募は、少人数私募であれ、機関投資家への私募であれ特定の相手方を勧誘の対象とする必要があるからです。確かに、公衆からお金を調達するんだから、開示はしっかりやれよというのは頷けるところがあります。しかし、すでに大きくなった会社ならいいでしょうが、これから大きくなりたい会社にとっては、かかる開示のためのコストが足かせになります。

 

ポイントの2つめは、匿名組合による募集を行った場合には、取得者が500名を超えてしまうと開示義務が発生することです。これでは多くの投資家から小口で集めようというグラウンドファンディングの目的が達成できないことは明らかです。

 

2 現状の議論

(1)業規制による緩和だけ?

議事録はしっかりと読めていないですが、2013年9月27日金融庁総務企画局の資料を拝見する限り、「クラウドファンディング」を促進するというテーマの中で想定している新ルールは、業規制を緩和するという議論のみのようです。すなわち、①ネット運営者である仲介者が金融業登録するために資本金規制のハードルを下げたり、②契約締結前交付書面の簡素化を図ることが検討されていますが、クラウドファンディングの「一般論として」は、開示規制の緩和するといった議論はされていないようです。

ただ、下記の述べるようにグリンシート銘柄の開示負担の緩和については議論がなされています。注意すべきなのは、クラウドファンディングとグリーンシート銘柄における規制の緩和との関係です。グリンシート銘柄はネット上で取引されるためクラウドファンディングの一種と言えば一種ですので、クラウドファンディングの開示規制の緩和は、グリンシート銘柄という枠組みに限定した形で検討がなされているといことです。なんかややこしいですね。。。

(2)開示規制を緩めよう!

クラウドファンディングを促進するには、プラットフォームとなりうるネット運営業者が多く出てくる必要があるので、業規制を緩和するのは1つの方向性です。ただ、1種業者や2種業者を取得している金融機関はすでに沢山あり、そういった既存の金融業者がクラウドファンディングのプラットフォームを設置することは可能なので、業規制を緩めることによりどれだけの意味があるのかと個人的には思っています。

 

クラウドファンディングでむしろ大事なのは、開示規制を緩めることだと思います。資金調達を行う事業者にとってみればできるだけ調達コストを抑えたいわけで、開示義務を負うのを避けたいはずです。しかし、インターネットで募集すると、株式や社債の私募の判断が勧誘者基準なので、必ず公募となってしまい結構重たい開示規制がかかってくる。この開示規制こそがインターネットでの募集での足かせになっていると思われます。したがって、クラウドファンディングを広げたいのであれば、業規制だけではなく、(i)私募の要件を緩めるとか又は(ii)公募として位置づけたとしても開示の負担を軽減するとかの方法で開示規制を緩める必要があります。

 

ちなみに本家の米国JOBS法においては、クラウドファンディングを、主に私募規制であるRegulation Dを規制緩和することでその促進を図ろうとしています。

 

この点、金融庁の資料を読む限り、開示規制の緩和については、先ほども書きましたが、私募を規制緩和するというよりは、既存の制度である「グリーンシート銘柄」における開示負担を緩めることで、新興企業の株式による資金調達を促進しようと考えているようです。既存の制度をそのまま生かそうという発想が念頭にあるように思います。ここでの議論がはっきりしないのですが、開示負担を緩める「新興企業」というのが「グリーンシート銘柄」に限られるのかということです。また、「新興企業」の認定は金融庁が行うのではなく、「グリーンシート銘柄」を選定する証券業協会など委ねるということになるのでしょうか。

 

グリーンシート銘柄の開示負担を緩めるのは、上記の(ii)の方向性を模索するものでそれ自体よい方向だと思います。また、既存の制度を利用するというのは賢い方法なのかもしれません(クラウドファンディングの議論の中ではややこしいですが)。ただ、仮にグリーンシート銘柄に限っての開示負担を減らすというのであれば、すでに取扱証券会社もあることから、ネット運営者のためにあえて第一種金融取引業者の登録の要件を緩和する意味はどこにあるのかという気がします。

さらに言えば、株式についてのクラウドファンディングはいいかもしれないけど、社債や匿名組合方式での開示規制の緩和はどうなるんだという気もします。個人的には、クラウドファンディングにおける開示規制の緩和が、グリンシート銘柄の議論だけで終わらないで欲しいと思っています。(例えば、ips細胞でご高名な山中教授の研究費用1兆円の資金調達を匿名組合方式でやろうと思ったら、このままだと依然として開示規制の負担が重いことになります。)

議論は始まったばかりですし、これから議論を見守りたいです。