Connecting the Dots

米国証券法、デリバティブ、香港証券市場について学んだことを書いていきます。当ブログは法的アドバイスを提供するものではありません。ブログ中の意見にわたる部分は個人的見解であり、私が所属する事務所の見解を述べるものではありません。

Regulation FD について

米国証券法にはRegulation FDという、公表前に重要な非公開情報をアナリストや一部の株主などに開示することを禁止するルールがあります。一部の者にだけ重要情報が伝わることによってインサイダー取引が誘発することを防止する機能があります。ポイントは、情報受領者が実際にインサイダー取引を行わなくても、情報を誤って一部の者に伝えただけRegulation FD違反として処罰の対象になるという点です。

 

このRegulation FDはインサイダー取引を防止するのに有効な法技術と思うのですが、日本においては導入されていません。その理由は、企業とアナリストの関わり方が米国と異なるからとされていますが、そんなに違いがあるのでしょうかね。

 

1 日本のインサイダー取引も情報伝達者を処罰するのでは?

日本においても、最近、インサイダー取引において情報伝達者も処罰の対象となりました。確かに、Regulation FDも、重要な情報を公表したという点を捉えて処罰しており、日本の規制もRegulation FDも情報伝達行為を処罰の対象とするという点では似ています。

 

しかし、日本の規制とRegulation FDは、インサイダー取引が行われることを前提としているか否かという点で違います、すなわち、日本において情報伝達者を処罰するというのは、あくまで情報受領者がインサイダー取引を行ったことを前提としています。一方で、Regulation FDは、インサイダー取引が行われるか否かは関係なく情報伝達行為だけを捉えて処罰の対象としています。その意味で、Regulation FDの方がより踏み込んだ規制となっていると言えます。

 

2 Regulation FDの概要

Regulation FDを大まかに説明するなら「ABに情報Xを知らせた場合には、当該情報Xは公開しなければならない。」というルールです。A, B, Xの具体的な内容は下記のとおりです。

(1)誰がAとなるか(情報発信者)

発行者又は、発行者の代理人が該当します。

 

(2)誰がBとなるか(情報受領者)

Broker Dealer, Investment Adviser, Institutional Investment Manager、投資会社(Investment companies),ヘッジファンドおよび関連会社(hedge funds)、株主が該当します。しかし、弁護士、会計士、Investment banker、格付会社は除かれています。

 

(3)情報Xとは

情報Xとは、情報が重要(material)であることと、非公開(non-public)であることが必要とされています。

①重要性の判断基準

重要な情報とは、「合理的な投資家が当該情報を投資に際して大切であると考える情報、又は、当該情報が現在開示されている情報へ全体として大きなインパクトをあたえる情報」とされています。しかし、これは明確な基準とは言えませんよね。結局は総合考慮で判断されています。例えば、下記のような情報が重要な情報とされています。

− 財務諸表(期末、四半期のもの)

− 重要な合併、事業譲渡、株式取得

− 重要なライセンス又は顧客の取得、喪失

− 商品、供給、在庫についての重要な進展

 

②重要性に関する留意点

重要性の判断は合理的な投資家を基準に判断されるため、仮に、投資家から見れば重要でない情報で、優れたアナリストだけが重要な情報だとわかるような情報が開示された場合には、FD Regulation違反となりません。従って、会社は、重要でない情報をアナリストに開示することができ、アナリストは、その情報を使うことができます。

 

(4)開示のタイミング

仮に、アナリスト、株主の開示が意図的な場合には、会社は同時に(simultaneously)に当該情報を公開する必要があります。意図的でない場合には、迅速に当該情報を開示する必要がある。具体的には迅速な開示とは、当該情報の開示から24時間以内または、翌日の取引日までには開示する必要があります。

 

具体的な開示の方法としては、8-K(臨時報告書)で行うのが通常です。代替的な方法としては、以下の2つの方法があります。

公衆に行き渡る方法でのプレスリリース

公衆に行き渡る方法での、カンファレンスコール

 

ここで、会社のウェブサイトに掲載するので足りるかという問題があります。結論を言えば、会社のウェブサイトに掲載するだけでは足りないと考えられています。それに加えて会社のウェブサイトが情報を開示する方法として認識されていること情報の開示として十分であること投資家、市場が反応するのに合理的な待機期間があることが必要とされています。

 

(5)罰則

会社およびCFOが、罰金を課される可能性があります。過去の事例としては以下のような例があるようです。

過去に悲観的な会社情報をしていたのと対照的に、非公開の会議において楽観的な業績予測を述べたこと

公開されている業績予測について、アナリストとのミーティングにおいて確約したこと

アナリストレポートをレビューして、アップデートした業績予測をアナリストに提供したこと