清算集中(CCP)の法的構成について
2011年にCDS、2012年にIRSへとデリバティブ取引の清算集中取引が拡大していることから、デリバティブを学ぶ者として清算集中について何度か書こうと試みました。しかし、自分の中で中々整理できてなかったので先延ばしにしていました。。
本音をいえば未だにしっかり整理できていませんが、見切り発車でとりあえず書いてみます。
1 現行のCCPの法的構成-債務引受か発生消滅
金商法はかつて債務引受の方法でしか清算を認めていませんでしたが、改正により「更改やその他」の方法による清算も認められるようになりました。
(1)債務引受構成
日本証券クリアリング(JSCC)やほふりクリアリングなどの既存のほとんどの清算集中は、業務方法書において債務引受の構成を採用しています。ただ、債務引受というと、全容を正確できておらず、全容を正確に言い表すなら「免責的債務引受+債権の発生」というのが正しいです。すなわち、BがAに対して負担する債務をCCPであるCが免責的に債務を引受けることで債務者となり、その代わりにCはBに対して債権を取得することになります。
A → B A →C→ B
●無因の債権発生はダメ?
CがBに対して債権を取得する点において、無因(なんの対価関係もなく)の債権発生であり有効性に疑義があるとイチャモンをつける人もいるようですが、債務引受の代わりに債権を取得すると考えれば有因と考えられますし、日本法は英米法のような約因主義をとっておらず無因でなにが悪いという気がしますので、あまり気にしなくてよいイチャモンなのかと思います。
(2)発生消滅構成
ほとんどの清算集中は債務引受構成なのですが、JSCCのCDS取引については発生消滅方式がとられています。発生消滅とは、CCPと清算参加者の間に現取引と同じ取引を発生させることを停止条件として、現取引を消滅させるということを合意するという方法です。
債務引受構成が、債務引受の合意(AとB)と債権の発生の合意(CとB)という2つの構成から成り立っている段階的なイメージなのに対し、発生消滅構成は新たな2つの債権が発生することにより現取引は消滅するという1つの合意からなっており全体を俯瞰して清算を捉えているイメージです。
●債権者の交替による更改では?
発生消滅方式はA,B,Cの三者間合意で新たに債権、債務関係を作りだすものであり、更改に近い考え方です。Bから見れば債権者がAからCに変わる点に置いて、債権者の交替による更改ともいえますし、Aから見れば債務者がBからCに変わる点に置いて債務者の交替による更改ともいえます。しかし、更改とは言わずにあくまで「発生消滅方式」という馴染みのない用語を使っています。裁判所により「債権者の交替による更改」と性質決定されると、第三者対抗要件の具備するためには確定日付のある証書が必要となるので、それを避けたいから更改という用語を使用してないのかもしれません。
ちなみに、和仁先生は明確に論文において「債権者の交替による更改」と性質決定すべきでないと書かれています。
2 差押と抗弁について
効率的な清算集中を行うためには、清算集中の対象となった債権債務については、差し押さえや抗弁を認めないことが必要とされています。
(1)差し押さえ禁止効について
清算参加者(A)の債権者(X)が清算機関(C)に対する債権を差し押さたり、仮差し押さえしたりすると清算業務の効率性に影響がでます。一方で、ある債権について差し押さえ禁止としてしまうことは、財産隠匿手段に使われかねないので慎重であるべきです。
現行の清算集中において、差し押さえが禁止されるか否かについては、審議会の議事録に「債権の差し押さえがあった場合には、当該債権を除外して清算をしている」旨の発言があったことから、現行の清算集中においては特に債権について差し押さえ禁止効が働いていないように思います。
ただ、商法の交互計算においては、差し押さえ禁止を認めていることから、清算集中と交互計算をどのように捉えるかは問題になります。
(2)抗弁について
清算機関が債務者であるBに対して支払を請求をした場合に、逐一契約にもとづき抗弁を申し立てられたら、清算集中はうまく機能しません。ですので、清算集中においては原則抗弁はみとめていないと思います。抗弁については、Bが異議なく承諾した場合には、抗弁が切断すると考えられるので、実務的にもBの承諾をあらかじめ取得しているのではないかと思われます。
3 民法改正における議論
清算集中の仕組みをどのように法的に位置づけるかについては、民法改正において議論されています。議論の当初は「一人計算」とか「特殊な更改」とか呼ばれていましたが、2013年2月26日決定の「民法改正に関する中間試案」においては「三面更改」という呼称が用いられています。内容は下記の通りです。
三面更改 (1) 債権者,債務者及び第三者の間で,従前の債務を消滅させ,債権者の第三 者に対する新たな債権と,第三者の債務者に対する新たな債権とが成立する 契約をしたときも,従前の債務は,更改によって消滅するものとする。 (2) 上記(1)の契約によって成立する新たな債権は,いずれも,消滅する従前の 債務と同一の給付を内容とするものとする。 (3) 将来債権について上記(1)の契約をした場合において,債権が発生したとき は,その時に,その債権に係る債務は,当然に更改によって消滅するものと する。 (4) 上記(1)の更改の第三者対抗要件として,前記3(2)(債権者の交替による 更改の第三者対抗要件)の規律を準用するものとする。 |
しかし、2013年10月29日審議会提出資料の「民法改正の要綱案のたたき台」においては三面更改は論点から落とされています。ですので、三面更改についての規定は民法改正において設けられない可能性もあります。