CSAのおける現金担保の取り方
CSAにおいて現金を担保として利用することがありますが、質権構成と消費貸借の構成のどちらがよいのでしょうか。
1 質権構成における現金担保の取り方
①対抗要件の取り方
質権構成においても現金を担保にとることができます。この場合、質権設定者名義の口座に担保となる現金を入金し、その口座上に質権を設定することになります。質権者名義の口座に入金した場合には、質権構成にはならず消費貸借として扱われます。口座質の法的性質は、債権質です。債権質の対抗要件は、1978年判例において、第三債務者からの確定日付付きの承諾又は通知となっています。したがって、口座質においては、口座管理銀行から確定日付をついて承諾又は通知が必要です。
②担保権者が口座管理銀行の場合には確定日付のある通知又は承諾は不要
質権設定者名義の口座が、銀行たる担保権者が管理する口座の場合には、担保権者は質権を実行するのではなく相殺をすれば足りるので、債権質の対抗要件を具備する必要はありません。
③普通預金ではなく定期預金を利用すべき
現行の裁判例上、普通預金質の有効性に疑義を呈する例があることから、口座の種類としては定期預金を利用すべきとされています。しかし、定期預金を利用した場合には、日々の現金の引き出し追加が難しいことから、担保管理という点からすれば好ましくないと思われます。なお、仮に担保権設定者が過剰に担保を入れていた場合には、質権構成の場合には、消費貸借構成と異なり、取戻権として一般債権者に優先して回収できる可能性があります。
あと、そもそも論ではありますが、普通預金質の有効性について疑義があるのが少しおかしいような気もします。根質や将来債権質の有効性が認められているのに、なぜ普通預金質の有効性が認められないのでしょうか。
2 消費貸借構成における現金担保の取り方
消費貸借の場合には、担保権者名義の口座に、担保権設定者が現金を入金することになります。消費貸借なので対抗要件は不要です。口座の種類は、普通預金でも定期預金でもかまいませんが、利便性から通常は普通預金、当座預金口座を利用すると思われます。したがって、消費貸借構成は、質権構成と異なり、普通預金を使えることから、担保管理についても容易にできると思われます。
もっとも、デリバティブ取引の相手方が一般事業法人である場合には、金融機関には分別管理義務が課せられていますので、担保権者名義の口座に入れられた現金については、信託を使うなりして適切に自己の資産と区別する必要があるので、質権構成と比べると、その点については金融機関側の負担になると思われます。