Connecting the Dots

米国証券法、デリバティブ、香港証券市場について学んだことを書いていきます。当ブログは法的アドバイスを提供するものではありません。ブログ中の意見にわたる部分は個人的見解であり、私が所属する事務所の見解を述べるものではありません。

アリババ NY上場への道も前途多難?

アリババは香港上場をあきらめてNY上場を目指すと伝えられていますが、NY上場においても、下記のような問題があります。

①パートナー制はアメリカでも受け入れられない?

NYで認められているDual Class Structureというのは、特定の少数株主が取締役の選任及び解任権を有するものです。すなわち、上場に当たって、特定の株式に取締役の選任権を認めるという種類株の発行を認めるというものです。一方でアリババの主張するパートナー制というのは、株主は取締役の選任及び解任権を一切有しておらず、パートナーといわれる別の組織が取締役の選任権を有しているようです。すなわち、株式と取締役の選任及び解任権がまったくリンクしていない方式みたいです。

まとめると、NYでは、少なくとも特定の株主に取締役の選任権を与えている点で株式と取締役の選任に一定のつながりがあるところ、アリババは株主には一切選任権をあたえず、パートナーという別の組織が株主を選任するスキームを考えているようです。

パートナー制というのはNYにおいても前例がなく、この仕組みを取引所に受け入れてもらうのはハードルが高そうです。ただ、アリババは、手続きがめんどうかもしれないですが、パートナー制を変更しNYで許容されているようなDual Class Structureを採用することで、支配権維持という目的は達成できます。

②アリババの過去の悪行?

(1)アリペイを傘下から外す

Corporate Structureの他に懸念としてあるのが、2011年にアリババが傘下の電子決済システム会社アリペイ(Alipay)をYahooSoftbankの事前の承認なく、アリババグループから分離し、ジャック・マー会長の保有する別の会社に譲渡したことです。ジャック・マー会長はオンライン申請のライセンス申請をスムーズに進めるためと説明しましたが、YahooSoftbankからすると必要があっても事前に相談しろっていうことなんでしょうね。こういった過去において適切にDisclosureができていなかったという経緯から、取引所が上場に難色を示す可能性があります。

(2)VIEとは

中国の会社の出資に関しては、中国政府が一定分野について中国の会社が外国の会社によって支配されないよう制限をかけています。厳密にルールを徹底すると、海外投資家は中国の会社に投資できません。しかし、中国の会社が、海外で上場して海外投資家からお金を集める抜け道があります。それがVIEVariable Interest Entity)という方式です。

VIEについてアリペイのケースで考えると、アリペイの経営権や利益をアリババに譲渡する独占業務委託契約なるものを締結していました。そうすることで、本来的には外国企業の投資が禁じられている業種について、ヤフーやソフトバンクはアリババに投資することによって、かかる規制業種への投資が可能になることになります。アリババがアリペイに出資をしているのではなく、アリペイからの利益を吸い上げる権利(Variable Interest Entity)を持っているという意味でVIE方式と呼ばれます。VIEというのは、エンロン事件を契機に用いられることになった会計上の用語で、直接の出資関係がなくても、出資に類似する契約関係がある会社は連結の対象いれるための概念です。

このアリババとアリペイの独占業務委託契約が、ヤフーやソフトバンクへの事前の合意なしに解除されたのが問題視されました。ヤフーとソフトバンクはアリババに投資しているわけではなく、実質的には収益の源であるアリペイに投資しているんですから、その収益の源がなくなるとヤフーとソフトバンクの投資は紙くずになるわけで、怒って当然な気がします。

ちなみにヤフーは、米国で投資先の重要事象の発生についての報告が遅れたことから訴訟を起されたとか。中国の会社だけには限らない話ですが、投資する際には、対象会社の重要事項の報告義務を明確に定めておくと共に、当該報告が遅れた場合に、投資会社が投資会社の株主から訴えられて蒙った損害の補償について定めておく必要がありますね。